平成28年8月大雨災害

平成28年8月大雨災害とこれを踏まえた今後の治水のあり方

平成28年は、7月末から前線等の影響で大雨があったのに加え、8月に入って、台風7号(17日)、11号(21日)、9号(23日)と3つの台風が連続して北海道に上陸した。さらに、台風10号が接近し、前線が刺激されて、29日から31日にかけて大雨が続いた。

これにより、台風11号、9号では、オホーツク海側の網走川、常呂川、湧別川で計画高水位を超え、石狩川でも深川市納内町等で浸水被害が発生、石狩川上流及び美瑛川でも氾濫危険水位を超える箇所が発生した。また、台風10号の接近による大雨は日高山脈周辺に集中し、十勝川で計画高水位を超え、南富良野町では幾寅市街地を流れる空知川の左岸堤防が決壊して床上浸水等の大きな被害が発生した。北海道で直轄区間の堤防が破堤したのは、昭和56年洪水以来のことである。また、東北地方でも、岩手県の二級河川小本川流域に位置する要配慮者利用施設で、入所者が逃げ遅れて多数の犠牲者が発生する等大きな被害が発生し、今回の水害は、平成28年北海道・東北豪雨災害と名付けられた

石狩川本川の氾濫による農地の浸水(平成28年8月23日。深川市納内町)
石狩川本川の氾濫による農地の浸水(平成28年8月23日。深川市納内町)
空知川左岸堤防の決壊による市街地の浸水(平成28年8月31日。南富良野町字幾寅)
空知川左岸堤防の決壊による市街地の浸水(平成28年8月31日。南富良野町字幾寅)

出典:北海道開発局「平成28年8月北海道大雨激甚災害を踏まえた水防災対策検討委員会」より
出典:北海道開発局「平成28年8月北海道大雨激甚災害を踏まえた水防災対策検討委員会」より

台風第7号・第11号・第9号・第10号経路図

出典:北海道開発局「平成28年8月北海道大雨激甚災害を踏まえた水防災対策検討委員会」より
出典:北海道開発局「平成28年8月北海道大雨激甚災害を踏まえた水防災対策検討委員会」より

利根川支流の鬼怒川が破堤した平成27年9月の関東・東北豪雨を契機として、国土交通省は、同年12月に「水防災意識社会 再構築ビジョン」を策定したが、今回の北海道・東北豪雨災害を受け、社会資本整備審議会河川分科会において、改めて「中小河川等における水防災意識社会の再構築のあり方について」 の答申がまとめられ、「水防災意識社会 再構築ビジョン」の取組を、直轄河川に加えて、都道府県管理河川(一般河川の指定区間及び二級河川)にも拡大していくこととなった。


災害の痛みは大きかったが、本災害は北海道の治水を抜本的に考える機会となった。北海道開発局と北海道が共同で、10月に「平成28年8月北海道大雨激甚災害を踏まえた水防災対策検討委員会(委員長:山田正中央大学教授)」を立ち上げ、将来に向けた気候変動とその適応策に関する議論を行い、気候変動により最も困難な状況に直面している北海道から、次の時代に向けた先導的な今後の水防災対策のあり方を検討し、平成29年3月に報告を取りまとめたのである。

また、今回大きな被害を受けた河川を中心に、関係機関が連携してハード・ソフト一体となった治水対策を実施する「北海道緊急治水対策プロジェクト」が、12月に国交省から発表され、ハード対策は平成28年度から平成31年度を目途に概ね4年間で集中的に進められることとなった。

今回の災害の特徴

(平成28年8月北海道大雨激甚災害を踏まえた水防災対策検討委員会報告書より抜粋)

【気象】

  • 観測史上初めて1週間に3つの台風が北海道に上陸、さらに台風第10号が接近
  • 連続する集中豪雨で年間降水量に匹敵する地域があるなど全道各地で記録的豪雨
  • 洪水が繰り返し発生して、水位が下がりきらずに再び上昇する状況が発生するとともに、流域が湿潤状態となり流出率が高い状況が発生

【河川の被害】

  • 国管理河川で堤防が決壊、特に上流部や支川において甚大な被害、本川下流含む全道各地で計画高水位を超過
  • 北海道管理河川でも多数の堤防決壊や河岸決壊による家屋や橋梁流出等の被害が発生
  • ダム等の治水施設や砂防施設が被害軽減に効果を発揮

【道路や鉄道、農業等の被害】

  • 幹線道路や鉄道の被災、多数の橋梁流出などにより、長期的・広域的に人流・物流を担う重要交通網が分断され、社会・経済に深刻な影響が発生。橋梁被害に関連する犠牲者も発生
  • 広範囲にわたる農地被害や食品加工場の被災等により、全国の市場で野菜価格が高騰するなど日本の食料供給へ大きな影響。農地の土壌流出の被害や輪作体系への影響など、影響が長期に及ぶ懸念
国道273号三国峠・高原大橋の被害
国道273号三国峠・高原大橋の被害
国道38号狩勝峠の被害状況
国道38号狩勝峠の被害状況

国道274号の陥没状況
国道274号の陥没状況
国道274号の被災状況
国道274号の被災状況

1. 北海道緊急治水対策プロジェクトの実施

~北海道H28一連台風災害対応の河川整備等~

  • 大きな被害を受けた河川を中心に、関係機関が連携し、ハード・ソフト一体となった緊急的な治水  対策「北海道緊急治水対策プロジェクト」を実施。
  • ハード対策として、被災施設の本格的な復旧とともに、再度災害防止を目的に、洪水時の水位を下  げるための河道掘削等の整備を平成28年度から平成31年度を目途に集中的に実施。また、ハード対策の実施にあたっては、農地の早期復旧のため、河道掘削土を有効活用できるよう  に関係機関と調整。
  • ソフト対策として、国管理河川に加え、今後、北海道管理河川においても協議会を設置し、 水位周  知河川の拡大や、住民等も参加する洪水に対してリスクの高い箇所の共同点検など、減災対策の検   討・取組を進める。

ハード対策

約700箇所において、事業費合計約831億円により、再度災害防止を目的とした改良復旧など、本格的な堤防整備や河道掘削等を概ね4年間で集中的に実施。

◇実施河川

 ○国管理河川:十勝川水系十勝川、常呂川水系常呂川、石狩川水系空知川など

 ○道管理河川:十勝川水系芽室川・ペケレベツ川・パンケ新得川など

◇事業内容・堤防整備・河道掘削・護岸整備など

◇実施事業・河川災害復旧事業・河川災害関連緊急事業・河川災害復旧等関連緊急事業など

ソフト対策

住民の避難を促すソフト対策を関係機関と連携して実施。

◇「減災対策協議会」にて検討された取組方針に基づく減災のための取組を、北海道・市町村・国等により

 連携して推進。

 ○タイムラインの作成・改良の加速化及びこれを活用した訓練の実施

 ○水位周知河川等への指定及び浸水想定区域図・ハザードマップの公表を推進

 ○国管理河川について、洪水情報のプッシュ型配信を推進

 ○住民参加型の共同点検の推進、水防災に関する啓発活動の強化

農地復旧との連携

一連の台風では農業関連の被害が甚大となり、その影響は全国に波及した。農作物と一緒に土壌も流出し

たことから、農地の早期復旧のため、河道掘削土を有効活用できるよう、関係機関と連携する。

農地復旧との連携

→さらに詳しい内容は、国土交通省北海道開発局札幌開発建設部 災害に備えて

  https://www.hkd.mlit.go.jp/sp/kasen_keikaku/kluhh4000000hihx.html

2. 今後の水防災対策のあり方

水防災対策検討委員会報告を踏まえた今後の水防災対策のあり方(概要)

今後の水防災対策のあり方を検討するため、北海道開発局と北海道は共同で、「平成28年8月北海道大雨激甚災害を踏まえた水防災対策検討委員会」を設置した。本災害について、気象、治水(農作物の生産空間の保全を含む)、防災等の観点から検証を行い、今後の水防災対策のあり方について、各専門家による委員会を平成28年10月から平成29年2月まで3回開催し、平成29年3月に報告をまとめた。

基本方針

  • 北海道は明治以降の治水事業により、順次社会を発展させてきた歴史がある。しかし、今後は気候変動の影響により、必要な対策を講じなければ治水の安全度が低下していくという、これまでに経験のない困難な状況に直面。次世代に安心・安全な北海道を引き継ぐため、速やかに対策に取り組まねばならない。
  • 今回甚大な被害に見舞われ、日本でも気候変動の影響が特に大きいと予測されている北海道から、次の時代に向けた新たな水防災対策のあり方を発信。地域の発展と日本の課題解決を通じ、日本全体へ貢献することは北海道総合開発の主眼である。

今後の水防災対策のあり方

(1)気候変動を考慮した治水対策

 気候変動の影響を予測し、治水対策を構築

  • 気候変動の影響予測とリスクの社会的共有
  • リスクに対する対策の構築、気候変動を考慮し た治水計画
  • 将来的に気候変動に迅速に対応できる対策
  • 気候変動への適応策の進め方

(2)ハード対策とソフト対策の総動員

治水施設整備を行うとともに、施設能力を超える洪水を前提とした対策の構築

  • ハード・ソフトの各種対策の可能性及び限界を 踏まえた対策の組み立て
  • 土地利用と一体となった氾濫抑制等の治水対策
  • 危機管理型の施設整備、大規模構造物の安全性 の確認

(3)避難の強化と避難体制の充実

  • 「水防災意識社会」再構築等の取組の推進
  • 住民等との災害リスク情報の共有化
  • 避難施設の整備

(4)支川や上流部等の治水対策

  • 水系一貫した治水対策
  • 支川や上流部等の治水安全度の向上
  • 土砂等の影響への対策

(5)既存施設の評価及び有効活用

  • 既設ダムの有効利用
  • 堤防の評価や堤防強化対策
  • 観測体制の強化・洪水予測精度の向上
  • 河川の適切な維持管理、施設の効果の確実な発現

(6)許可工作物等への対応

  • 被災要因の分析と対策、防災・減災技術の研究 開発、ソフト対策

(7)生産空間の保全

  • 農業に関わる治水対策の適正な評価方法
  • 農地の利用形態等を考慮した治水対策、農業と河川事業の連携
  • 河道掘削土や河道内樹木・流木等の農業への有効活用
7つの計画は?

7つの計画は、おおむね5年以内に取り組み、その後フォローアップで効果の検証と新たな対策等を検討する

さらに詳しい内容は、国土交通省北海道開発局 

 平成28年8月北海道大雨激甚災害を踏まえた水防災対策検討委員会

 http://www.hkd.mlit.go.jp/ky/kn/kawa_kei/ud49g7000000f0l0.html

3. 空知川流域の河川協力団体等が台風10号の被災地を支援

水源地の金山ダムが空知川下流のまちを守った!

今回の水害で、南富良野町では空知川の堤防が破堤し、金山ダム上流に位置する幾寅市街地で大きな浸水被害が発生した。一方で、金山ダムでは、8月17日~31日に4度の洪水調節を行い、幾寅市街地が浸水した8月31日には最大で1,320m3/sの洪水調節を行い、下流の富良野市(布部水位観測所)では水位を約2.3m低減させる効果があったと推定されている。空知川沿川の富良野市、芦別市、赤平市、滝川市、空知川合流地点下流の砂川市等は、金山ダムの洪水調節により大きな被害を免れた。

金山ダムの運用状況

金山ダムの運用状況1
金山ダムの運用状況2

平成28年9月9日、赤平ラブ・リバー推進協会が中心となり、市民防災体験会(赤平市)で特別展示ブース「金山ダムが富良野・赤平を守った」を設け、金山ダムの効果を紹介するとともに義援金の呼びかけを行った。また、平成28年9月10日、NPO法人まち・川づくりサポートセンター主催の「ミズベリング石狩川」(滝川市)会場では、「緑とエコ」サポーターネット(滝川市)と「石狩川下覧櫂」(砂川市)が義援金を呼びかけるとともに、水源地とダムの役割を説明した。河川協力団体が、災害を機に空知川流域として活動を行ったことは、これからの取り組みの可能性を広げたと言える。

空知川流域の河川協力団体等が台風10号の被災地を支援
空知川流域の河川協力団体等が台風10号の被災地を支援
赤平市での特別展示「金山ダムが富良野・赤平を守った」と義援金箱
赤平市での特別展示「金山ダムが富良野・赤平を守った」と義援金箱
滝川市でも義援金の呼びかけが行われた(画像:まち・川づくりサポートセンター)
滝川市でも義援金の呼びかけが行われた(画像:まち・川づくりサポートセンター)


ダムアワード2016大賞と洪水調節賞を受賞!

一般のダムファンによる選考委員会が主催し、選考を行う「ダムアワード2016」が平成28年12月に開催され、金山ダムは、空知川流域を守るためにぎりぎりまで水を貯めた働きが評価され、2016年の一番優秀なダムとして大賞に選ばれ、同時に、印象深い洪水調節を行ったダムに与えられる「洪水調節賞」を受賞した。

金山ダムの貯水状況(平成28年8月31日撮影)
金山ダムの貯水状況(平成28年8月31日撮影)

※「平成28年8月大雨災害」に使った資料、図・グラフ・マップ、災害画像・農地復旧画像・赤平市特別展示画像、金山ダム画像はすべて北海道開発局より